🐬 コミュニケーション

はじめに

かつてのコミュニケーションは、直接顔を合わせて行うのが基本だった、と思う。

対面でのコミュニケーションでは、言葉にプラスしたボディランゲージ（表情、声のトーン、間）などで、言葉だけでなく多くの非言語的情報が用いられていると感じている。

例えば、言葉にしづらい微妙なニュアンスは目線やろくろを回すようなジェスチャーであったり、冗談を示す際は肩をすくめたりなど。

しかし、現代ではLINEやSlackなどのチャットツールが主流になり、その場で会話するというよりは局所的な時差を伴う一方通行なコミュニケーションが中心になっていると感じている。

離れていてもすぐに会話でき、手間がかからないこの形式は時間や場所に制限されないという恩恵をもたらす一方、「とりあえず送る」というスタイルに陥りがちであり、やり取りのテンポやコミュニケーションの濃度が薄まってしまうように感じている。

昨日ツイートした一連の内容が思った以上に反響があったので、もう少し詳しくnoteに書いてみる。最近の学生は突然「ワーホリ行くならどこの国がおすすめですか？」みたいな、背景も条件も何もわからない連絡が来たりする。そのことを先生に話したら興味深いことを教えてくれた。曰くあれは「一発で全部書くのではなく、相手が質問してくれることを想定して、やりとりするつもりでいるんです」と。 — 中村洋太（ライター＆コンサル） (@yota1029) August 26, 2022 これすごく納得するなあ...！個人的に、この前ソラミドラジオで話した『頼る』と『甘える』の違いにも通じるものがあ

自分も、以前よりはチャットベースで会話をしていると自負している節がある。

この記事では、気軽に取れるようになったコミュニケーションだからこそ「気をつけなければいけない点」を自戒としてまとめることにする。

加速するチャットコミュニケーション化？

昨今ではChatGPTのような対話型AIとのやり取りが加わったことで、さらに「とりあえず送る」という状況に拍車をかけているような気がする。

なぜなら、AIは人間のように細かく説明しなくても「なんとなく読み取って答えてくれる」という実感が得やすいからだ。

インプットが曖昧でもそこそこのアウトプットが得られるというのは便利であると感じていて、いずれはこの形式こそが日常になっていくとも感じている。

しかし、この形式のまま対人とのコミュニケーションを行うと、「これくらい察してくれるだろう」という期待を生みやすいのではないかと考えている。

実際、人間はそこまで高性能ではない。

話の前提がわからなければ混乱/困惑するし、「こういうことですか？」と相手の心を読み取ることも難しい。

その結果、「（AIに質問したら答えてくれるのに）話をしてもわかってくれない」と不満が生まれてしまう恐れがある。

人間同士のコミュニケーション

人間同士のコミュニケーションには、ある種の「不確実性」がある。

それを補っているのが、冒頭で記載したボディランゲージや関係性の配慮といった人間ならではの感覚だと考えている。

しかし、チャットベース、かつ「とりあえず送る」コミュニケーションではそういった情報が遮断されてしまう。

対面でないからこそ、送り手側が相手の状況やコンテキストの差など想像力がないと受け手側を混乱させる。

特に、時間というリソースは有限なので、多忙な相手にとっては何度も細かく聞き返さなくてはいけないやり取りは時間的にも心理的にも負担が大きい。

人間へのコミュニケーションでは、「相手の意識や時間を割いている」という自覚と、できるだけ一度で伝えられるように質問や目的などを整理して伝える姿勢が必要だ。

コミュニケーションは難しい、だからこそ…

「では完璧な質問でないと質問してはいけないのか？」と感じるかもしれないが、そうではない。

大前提として、コミュニケーションは難しい。

伝えたいことが整理されていないこともあるし、状況によっては言語化する前にまずは感覚などを共有したい場合もある。

故に、「コミュニケーションは難しい」という前提の上でお互いがコミュニケーションを行うことが大切だと考えている。

AIでも人間でも、「回答が期待とズレているな」と感じた時、まず見直すべきは自分のインプットであるように。

目的や意図、質問するに至った経緯や自分と相手とのコンテキストの差などが伝わっていなければ、相手は適切な返しができない。

まずは自分から相手に投げかけるコミュニケーションの質を上げることを考えたい。

具体的な方法

コミュニケーションの形式や方法が進化しているからこそ、送り手側の意識で改善や良質なコミュニケーションになることがある。

個人的な心構えとしては大きく分けて2つ。

「一を伝える技術を磨くこと」
「相手へのリスペクトを忘れないこと」

一を伝える技術を磨くこと

チャット文化やAIとのやり取りに慣れると、前述した通り自然と「短く伝える」「とりあえず送る」にも慣れてくると感じている。

その一方で、「相手に伝わるように整理して話す力」、一を伝える技術が置き去りになってしまっているようにも思える。

伝える技術には言語化の力が不可欠だと思っているので、良ければ別で切り離している言語化の記事も併せて確認したい。

クリティカルシンキング（批判的思考法）とは？　ロジカルシンキングとの違いや背景、メリットを分かりやすく解説 | 人材育成・組織開発お役立ち情報・用語集 | 人材育成・研修のリクルートマネジメントソリューションズ

「クリティカルシンキング」とは。人材育成・研修・マネジメント用語「クリティカルシンキング」の説明です。リクルートマネジメントソリューションズは人材育成、組織開発から営業力強化まで、経営・人事課題解決を支援します。

個人的に「一を伝える力」を磨く上で意識しているのは、以下の2つの視点だ。

「なぜそれを聞くのか」を自問する

一つ目は、質問を投げる前に「なぜそれを聞くのか」を自問すること。

これにより、相手から何を聞き出したいのか（目的）を意識することができるので、返答に対して判断ができるようになる。

当たり前だが、曖昧な質問には曖昧な答えしか返ってこない事が多い。

例えば、「この実装どう思いますか？」という質問は、質問としては成立しているが、「実装の方法を見てほしいのか？」「ただ感想を求めているのか？」など、「何を求めているのか」が見えにくい。

一方で、「実装自体はできたのですが、〇〇の方法と✕✕の方法で迷っています。個人的には〇〇の方が△△という理由で良いと思っているのですが、どう思いますか？」と伝えれば、質問の背景と目的が明示されていてわかりやすい。

また、受け手側も選択肢を提示された上で判断ができる。

情報のコンテキストを共有する

二つ目は自分もよくやってしまう誤りで、質問して回答を引き出すことが目的となり、自分と相手との情報差や認識が同一であるというバイアスが掛かってしまうことだ。

自分が知っていることは相手も知っているという前提で話しがちだが、その前提が成立しないことは大いに有り得る。

特に、感覚を用いた曖昧な説明をするときや、抽象的な話をする時は「前提として〇〇という仕様があったと思うのですが」など、ある種の枕詞を入れることで、「相手側に渡す情報が何であるか」「自分の情報は何であるか」を明示するのが良い。

例えば、「このライブラリって使って大丈夫なんでしたっけ？」という質問は、どのような観点で「大丈夫」なのかが受け手側へは伝わらない。

一方で、「〇〇というルールがあったと思うのですが、このライブラリって使用してもセキュリティ的な懸念はありませんかね？」と伝えれば、目的と質問者の懸念が伝わる。

相手へのリスペクトを忘れないこと

リスペクトとは丁寧語を使うことでも、へりくだることでも、謙遜することでもない。

相手の状況や文脈を思いやり、「これを伝えたいです」という意識を持って言葉を選ぶこと、そしてその姿勢を示すことだと考えている。

例えば、以下のような二つの言い方があるとする。

「実装の件、どうですか？」
「〇〇の実装ですが、進捗いかがでしょうか？期日までは少し余裕ありますが、なにか悩んでいたり詰まっている部分がないか確認させてください。」

もちろん受け取り方には個人差があるが、個人的には、後者の方がリスペクトされていると感じる。

後者のほうが目的の提示をしたあとに、相手への配慮、誠実さを示していると感じるからだ。

目的の提示
- 「〇〇の実装ですが、進捗いかがでしょうか？」という部分で、何を聞きたいのかを率直に伝えている
相手への関心や配慮
- 「期日までは少し余裕ありますが」という部分で、相手のスケジュールを把握したうえでの質問だということを伝えている
丁寧さ/誠実さ
- 「なにか悩んでいることや詰まっている部分がないか確認したい」という部分で、懸念や悩んでいることがないか寄り添ってくれていると感じる

意識していること

自分自身、何かを伝える時に特別なテクニックを使っているわけではないが、心がけている点は二つある。

相手の思考コストを下げられているか

質問する相手が秀でていればいるほど、質問する際に、「言わなくてもわかってくれるだろう」と無意識に思ってしまうことがある。

何気ない質問であっても、相手にとっては「考える時間」が必要で、それは事前に共有された情報があればあるほど削減できることが多いと考えている。

例えば、「〇〇の件、どうですか？」と質問されたとき、受け手側は「進捗を確認したいのか？」「そもそも〇〇のどの話なのか？」と、思考力を使う。

一方、「〇〇の実装の件について、進捗を確認させてください」というように目的や意図がわかれば、受け手側は自分の状況から何を伝えればよいのか思い浮かべやすくなる。

必ずしも情報を削ったり、加えたりする必要はないが、質問する際には情報を丁寧に渡すことを心がけたい。

気持ちをのせられているか

相手に配慮するだけではなく、相手に考える余白を残しながら質問することも重要だと考えている。

「この情報があればもっと判断しやすいかも」「感謝の言葉を添えつつもう少し深堀りしてみよう」など、相手を慮ることで信頼を積み重ねる事ができると考えている。

また、「気になっているから質問したい」「困っているなら少しでも力になりたい」という思いがあるのなら、それも乗せてしまって良いと考えている。

感情を言葉に乗せることは、安心感や信頼に変わることがあるからだ。

まとめ

コミュニケーションの形式が大きく変化してきた現代において、対面では当たり前に補えていた「非言語的な配慮」や「コンテキストの共有」が、抜け落ちやすくなってきている。

だからこそ、言葉の力と、相手に向き合う姿勢がより重要になってくると考えている。

「伝えたいことを一発で完璧に伝える」ことは目的ではなく、「お互いに伝わるために工夫する」ことが大切。

自分の思いやコンテキストをきちんと整理して届けることがリスペクトであり、お互いが気持ちよくコミュニケーションをしていくための礎になる。

便利になった時代だからこそ、丁寧に伝える姿勢が大事だと考えている。

リーダーに求められるコミュニケーション力（蛇足）

さんざん書いたが、個人的にはリーダーや職位が上の人達は、コミュニケーションにおいてある種のエスパー力を求められる場面が多いと感じている。

プレイヤー層や、他領域の人たちの「本当に伝えたいこと」「モヤモヤ」「違和感」などを汲み取る力が必要とされることがあるからだ。

例えば、プレイヤーから話を持ちかけてきたときに

解決をしたいのか？
相談したいだけなのか？
ただ話したいのか？

そのニーズを見極められるかどうかで、後々の対応の方向性も大きく変わってくる。

行間を読む力

日本語には婉曲表現や曖昧なニュアンスのやり取りが多いが、それらによって人間関係を円滑に保ったりすることができるなど、個人的にも美徳であると感じている。

しかし、仕事の現場においては意図の取り違えがそのままトラブルになるケースも少なくない。

故に、リーダーは「曖昧さ」を感じ取らなければいけない場面があると感じている。

前述したようにリスペクトを持ちながら、しっかりと明確に伝えなければいけない言葉にしたうえで、安心して受け取れるように相手へ渡す。

「遠回しな表現だけど、おそらくもう少し踏み込んだ話をしたいんだろうな」
「整然としているけれど、感情的な部分がありそうで、不満が溜まっているんだろうな」

など、相手の言葉から行間を読む力を汲み取り、形にして言葉にする力は必要とされてくると考えている。

気をつけたいこと

上述した「行間を読む力」は、「察して代わりに言ってあげる」といった構造になりがちだと感じている。

「何が言いたいのかわからない」と切り捨てるのは論外で、心理的安全性どころかチームを崩壊させかねない。

しかし、「こう言いたいんでしょ？」とある種支配的に形にはめてしまうのも、相手の伝えたいことやコミュニケーション力の余白を制限してしまいかねない。

目指すべき理想としては、「たぶんこういうことかな？」と相手に寄り添いながら支援し、伝えたいことを引き出す力を持つことだと考えている。

相手にとっての安心できる相手でありたい。

参考リンク

コミュニケーション・スキルの重要性